「そう言えば昨日、連絡を下さいましたのよ。」 「え?」 目の前の、柔らかな光を受けたその優美な微笑を見ながら、アスランは問い返した。 色彩り彩りの花々が咲き誇るその庭のテラスの、テーブルの向こうでティーカップを手に微笑んでいる彼女はかつて自分の婚約者であり、もし何事も起こらなければ今頃は、共に人生を歩んでいた筈の 仕事でプラントへ来ていたアスランは、時間の余暇を見つけてその細君を久々に訪問していた。 「とてもお元気そうでしたわ。」 「…ああ、…。」 やっと彼女―ラクスが誰の話をしているのか合点が言ったアスランは、少々間の抜けた返事を返した。 いつも話の核心部分しか話さない彼女との会話は、そう言えば昔からこんな感じだったと何気なく思い出していた。一見、何を言い出すか分からない取り留めの無い会話のようにも思えるが、その実、彼女の言葉は物事の核心を的確に突いていて、その言葉で幾度と無く見失っていたものに気付かされた事があった。時にシンプル過ぎるその言葉と行動が、周囲からすれば予想もしない突拍子も無いものに映り、理解され難い事もしばしばだったのだが。 「とても貴方に助けられている、と、そう仰っていましたわ。」 「ああ……そうですか。」 自分と会話をする時の、昔から変わらない、その言葉少なな返事の仕方に内心微笑しながら、ラクスはポットから2杯目のお茶をアスランのカップに注ぎ入れた。自分の前では終ぞ本当の自分というものを殆ど曝け出した事の無いこの人が、あの 「手紙を 「…は?」 「貴方からいただいた、と、とても嬉しそうに話していらっしゃいました。」 「……手…紙…?」 一瞬何の事か分からないと言った様子で、アスランはキョトンとラクスを見返した。 「ええ、手紙、ですわ。とても嬉しい手紙をいただいた、と、 その言葉に、暫く思いを巡らせていたアスランは、一瞬ハッとした表情を浮かべると、カシャン、という音と共に、持っていたカップをソーサーに戻した。いや、取り落とした、と言ったほうが正解かも知れない。 「あ、すみません…。」 「いえ、 小首を傾けて、可愛らしい仕草で問いかけてくるラクスの菫色の瞳も、もはやアスランの目には映ってはいない。 「あ、いや、…何でも、何でも無いんです。」 そう答えるアスランの表情は、何でも無い、事は無い、と言う事を、つぶさに物語っていた。 「手紙を贈るという事は、とても素晴らしい事ですわね。言葉では伝えられない想いを文字に込めてそれを相手に贈る、こんな素敵な事はありませんもの。」 そう言うと、ラクスは微笑んだ。 「私も今度、キラに手紙を書いてみようと思っています。毎日連絡は下さるのですけれど…言葉では伝えられない想い、というものをしたためてみたくなりました。」 今は仕事で暫くオーブへ赴いている良人に、想いを馳せるようにラクスは微笑んだ。 「そうですね。きっとあいつも喜ぶでしょう。」 そのラクスの微笑みに誘われるように、アスランも微笑んだ。先程の狼狽が、その微笑で少しは報われたかのように。 暇を告げて立ち去る間際、アスランがふと振り向いた。 「貴女が幸せそうで、良かった。」 ラクスはもうすぐ母親になる。 「ええ、貴方は?」 幸せそうに微笑むラクスに、答える代わりにアスランは緩やかに微笑した。 オーブへと向かうシャトルの定期便の中で、アスランは自問自答していた。 あの大戦の 「……まさか…いや…。」 そんな言葉を繰り返し、アスランはオーブへと戻ってきた。 ドアのロックを開けると、その部屋にはカガリの姿は無い。官邸に寄らず、直接家に戻ったアスランはまだカガリと顔を合わせてはいなかった。今日も閣議や書類の決済で、遅くなっているのだろう。 カガリがこの部屋で一緒に暮らすようになってまだ日は浅いが、既にそこここに、カガリの残影を思わせる生活の匂いがある。不思議なものだとアスランは思った。 リビングの灯りを点けると、ふと机の上に置かれた白い封筒が目に入る。 まだ着替えも済ませないままで、それを手に取ったアスランは暫くじっとそれを見ていたが、やがて意を決したように、中から一枚の便箋を取り出した 戻 次 |