「花で、飾ろう」 前編 〜 Primrose
物語は街角の一軒の花屋から−。そこで働く若い女性店員の視点で始まる。
「いらっしゃいませ。」
お客が入ってきた。
若い男の人だ…。
…わぁ……綺麗な顔の男の人だなあ。なんていうか、王子様顔っていうのかなあ。
白馬とか剣とか、似合いそうだ。
私の好きなファンタジー小説の主人公にピッタリって感じ…。
そんな事を考えていると、その人は店内の花を眺めだした。
どうも何かを探しているようだ…。
「何か、お探しですか?」
近付いて声を掛ける。
「ああ…あの…。」
その人はこっちを見た。
瞳がエメラルド・グリーンだ。
うわ…なんて綺麗な色なんだろう。吸い込まれそうだというのは、こういう事を言うのかもしれない…。
思わず、見とれてしまった。
「プリムローズってありますか?」
「あ、はい。ございます…こちらに…。」
そう言って、花の前に連れて行く。
…歳は、二十歳前後…かなあ。
スーツ姿がまた似合っててカッコイイ。
これからデート、なのかなあ…。まあ、花を指定して買うくらいだから、きっと女性への贈り物だよな。
いいなあ…これ貰う人。こんな人から花貰ってみたいよ。
「花のお色はどういたしましょう…?」
「…白、でお願いします。」
…白、だって。こんな花の白なんて、絶対恋人じゃん…。
やっぱり恋人、いるんだ…。やっぱりなあ…。なーんだ…。
「あの…。」
「はい?」
「それ、…その…ブーケみたいな感じにしてもらえませんか…?」
「え?…ブーケ…ですか?」
ブーケって…。何のブーケ…?
ブーケにも色々あるぞ。
だいたい、そういうものはもっと前から予約してもらわないとだな…。
私が怪訝な顔をしたので、その人はちょっと心配そうに、
「……無理、ですか?」
そんな真剣に、哀願するような顔をされると…。
だいたい、時間がかかるんだって、こういうの。
「……ちょっとお時間がかかりますが…よろしいですか?」
つくづく……男前って、得だと思う。
そんな顔されたら、なんか断れない…。(でも他の客だったら断ってるかも…)
それに、何だか事情が有りそうだし…ちょうど店も暇な時間帯だし…。
まあ……特別に。
「ありがとうございます。」
うっ……そんな微笑返し……無敵だ、きっとこの人。
いいなあ…この花貰う人。
きっと幸せなんだろうなあ。
プリムローズ…確か、5月何日かの誕生花だったから、誕生日プレゼント…?
…とにかく、綺麗なのを作ってあげよう。
それから2、3打ち合わせをして、白いプリムローズのブーケが出来上がった。
バラに似た花だけど(ローズってつくくらいなので)、バラよりもちょっと小柄で清楚な感じのこの花は、ブーケにするととても可憐で可愛かった。(…彼女もこんな感じなのかなあ…?)
なかなかいい出来だ。きっと、相手の人も喜ぶだろう。
そんなところを想像していると、ちょっと楽しくなった。
「お待たせしました。」
そう言ってブーケを見せると、
「…ありがとうございます。」
とても嬉しそうな笑みを浮かべて、私ではなく花を見てそう言った。
きっと、今その人の事を考えてたんだろうなあ…。
……羨ましい。
まあ、でもいいか。こんなに喜んでくれたんだし…。
「本当に、ありがとうございました。」
その人は、もう一度丁寧にお礼をいうと、大事そうに花を抱えて店を出て行った。
本当に大事そうに、花を抱えて…。
いいなあ。あそこまで高望みはしないから、あんな花をくれる人、探そうかなあ…。
でも、やっぱりあんな人がいたら、いいなあ…。
「すみませーん。」
せっかくいい気分に浸ってたのに…お客だ。
「はあい。」
でも何だか、幸せをあげたようで、私も一日幸せな気分で過ごせそうだ。
あの人にとっても、幸せな一日になるといいなあ…。
「どの花をお探しですか……?」
→後編へ
<2005.02.27>
(言い訳)
真っ赤な嘘があります。プリムローズは普通鉢植え用なので、切花としては多分売っていないハズ…。
話上どうしても必要なので、捏造しました。悪しからず。それと、写真はプリムローズではありません。無かったので、バラで代用…。
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