朝のおめざ







目覚めると、いつもとは違う朝の様子に、カガリはぼやけた頭でまず、「おや?」と思った。
それから次第に覚醒していく意識の中で、やっと、「……ああ、そうか」と思った。
――昨日は……泊まったんだっけ……。
アスランの部屋に、所謂「初めてのお泊り」というイベントだったワケで……。
いつも見慣れた筈の部屋なのに、朝というシチュエーションが加わっただけで、こんなにも雰囲気が違うものかとカガリは思う。
そして、ふと隣を見ると……そこにある筈の姿が何故か見当たらない。
「あれ……?」
ムックリとベッドから起き上がると、カガリはパジャマ代わりのアスランの大きなシャツを着たまま、部屋のドアの方へ歩いていく。
すると、そこからいい香りが流れ込んで来た。
部屋を出て、キッチンへ向かうと、
「おはよう」
と声を掛けられた。
「コーヒー、飲む?」
コーヒーの芳ばしいいい香りを部屋中に満たしながら、まだ起き抜けの薄着姿のままのアスランが振り向いて言った。
もちろん、朝のこんな光景は初めてだ。
「……はよ…。うん、飲む」
まだ眠い目を擦りながら、軽く欠伸をしつつ、カガリはそう答える。
……コイツ、何でこんなに元気なんだ?……
新鮮な光景とは裏腹に、内心カガリがそう思ったのは、昨日眠った時間が遅かったからで…。
何故遅かったかというのは、説明するまでも無い。
……ホントに男って変なところで元気だよな……
カガリはつくづくそう思う。
男女の大きな違い……本当に男は本能で生きてるんじゃないのか?
なんて事を考えていた時、ホワッとした湯気と共に、コーヒーが目の前に現れた。
テーブルを挟んで、向かい合う。
朝からこんな光景、何だか妙にくすぐったい気がするな、とカガリは思った。
でも、何だか楽しい。
今日は二人ともオフの日だから、時間の許す限り、ゆっくりとしていられる。
そう思って、カガリが今日のこれからをどうしようかとあれこれ考えていると、アスランも
「今日はどうしようか」
と同じ事を言った。
「せっかくたまの休みなんだし……」
そうアスランが言うと、
「そうだな……しばらく会って無いから、久しぶりにキラ達に会いに行きたい」
とカガリがそう言った。
「そうだな」
と言ったアスランだったが、それじゃあ二人きりの時間じゃ無くなってしまうんだが……と内心そう思う。
そういうところは、まだ鈍いカガリ…。
鈍いと言うのか、拘らないと言うのか。
でも惚れた弱みだから、仕方が無いし……そうアスランは思いつつも、ちょっとチロチロと燻る気持ち…。
そんなアスランを他所に、
「なあ、朝御飯食べよう」
とカガリは空腹を訴える。
そう言ってから、ふと自分の姿を見て、
「……着替えてくる」
と初めて、自分が下着とシャツ以外に何も身に着けていない事に気づいた。
…こんな格好は……非常にマズイ。
立ち上がって行こうとすると、
「ああ、どうせまたもう一回、着るんだから」
と後ろからアスランの声。
「………へ?」
立ち止まる、カガリ。
…嫌な予感がして振り返ったカガリは、妙にニコニコとしたアスランの顔に出くわす。
以前よりはそういう男女の機微というものに聡くなったカガリは、恐る恐る、アスランに訊ねる。
「なあ、……今って、確か、朝…だよな?」
「うん、そうだけど?」
「……じゃあ、起きたらまず、普通『朝御飯』、だよな?」
「ああ、そうだな」
「………」
これ以上何か言うと、またどんどん墓穴を掘らされるのがわかっているので、カガリは沈黙する。
アスランがこういうふうに妙に素直に返事をするのはその前触れだと言う事を、カガリはよく知っている。
こうなると、もう抵抗する術が無い。
「あの…さ…」
「何?」
その時にはもう、既に壁際に追い詰められているカガリ。
「お腹…空いた…な…」
虚しいとわかっていて、最後の抵抗を試みる。
「そうだな」
そう言ってアスランは……朝食前の『おめざ』を、パクリ……。


数時間後。
空腹の限界に達したカガリが、
「もお、いい加減にしろよ!お前のせいで、朝食とランチがダブッたじゃないか!!」
とマジ切れ寸前だった、とか…。
そしてその後、疲れ切ってまた眠ってしまい、再び目覚めると、既に日は西に傾いていた。
結局、キラに会いに行く事もお流れになり、カガリはずっとそこに足止めされたまま、アスランの企み通りに一日が終わったのだった。


カガリは重い体を引きずるようにして、自分の部屋へと辿り着く。
そして、
「アスランの、バカ…」
痛む体をさすりながら、見えない相手に向かって、恨み言を投げかける。
「もう、二度と、泊まらない…」
果たして本当にカガリのそんな誓いが守られるのかどうか……。
いや、多分、相手があのアスランである以上……きっと近いうちに、反古にされるに違いない……。


<2005.03.19>


「ヒナン」へ

なんちう話…。泊まるために、一体何て言って家を出たんでしょう?
前の重ーい話からどう考えても繋がらないぞ。そこはやっぱり、何も考えずに作ってるからだ…。
「おめざ」=子供が眠りから覚めた時に与える菓子の類。おめざまし。(国語辞典より)