残 像







アスランが風邪をひいて寝込んだ。
「コーディネーターでも風邪をひくんだな。」
とカガリが笑った。
疲れが溜まっていたのか、体がだるく熱が一時は39度近くまで上がったが、薬が効いてすぐに熱は37度代まで下がった。
体がまだフラフラするので、2,3日は寝ていなさい、と医者は言った。
「看病してやるから。」
そう言って、断わるアスランの言葉を無視し、カガリはやって来た。
「今日は、確か官邸で昼から会議があったはずだろう。」
「ああ、延ばしてもらった。」
ケロリと言うカガリにアスランは溜息をつく。
「俺は大丈夫だから、カガリ。」
「大丈夫、じゃないだろ。まともに歩けないクセに。」
確かに、あまり病気に慣れていなかった体は、こんなにも言う事を聞かないものかと思う。
「ほら、病人は黙って寝てなさい。」
カガリは子供に言い聞かせるように言う。
「なんだか、母親みたいだな。」
アスランは苦笑した。

「昔、子供の頃に一度だけ風邪で寝込んだことがあるんだ。」
暫くして、アスランはベッドの傍らに座るカガリに話し始めた。
「その時、母がずっと側に付き添ってくれて…。それが何だか子供心に凄く嬉しくて、治るのがなんだか惜しかった。おおっぴらに甘えられるのは、そんな時くらいしかなかったからな…。」
カガリは黙って聞いていた。
「何でかな、さっきのカガリを見てたら母を思い出した。」
カガリは微笑んだ。
「いい響きだな、『お母さん』って。」
そして、外の景色を見ながら言った。
「私は今まで一度もそう呼んだ事は無い。同じ双子でも、キラには育ての親とは言え、そう呼べる人がいた…それは全然羨ましくないと言えば嘘になるかもしれないけど、でも…。」
カガリはアスランを見て言った。
「私はお父様から2人分以上の愛情を一杯戴いたから…それで十分幸せ。」
そう言って微笑んだ。
アスランはそんなカガリが愛しい、と思う。健気だった。
「もし将来、私の子供が生まれたら、『お母様』って呼ばれるのかな…って思ったら、なんだかくすぐったいな。」
カガリは照れたように笑った。
「そうだな。それで、出来ればその子が俺に似てれば嬉しいんだけど。」
そう言ってアスランは意味ありげにニヤリと笑う。
カガリは一瞬顔を紅くして
「そ、そんな事言われても、困る。」
と訳のわからない返事をして、プイッと横を向いた。
そして、アスランに体ごと引っ張られた。

数日後、今度はカガリが寝込む事になる。


<2004.11.21>