予 感







カガリは夢を見た。
アスランが何処か遠くへ行ってしまう夢だった。
妙な胸騒ぎがした。

「アスラン…。」
「何?カガリ。」
「いや、何でも…無い。」
カガリは今朝から落ち着かない。あの夢がカガリの心のどこかに引っかかって、チクチクと胸を刺す。ただの夢だとわかっているのに、何故か頭から離れない。ザワザワと心が妙な音をたてる。
「カガリ、どうかしたのか?」
様子がおかしいカガリに、アスランが心配そうな顔をする。
「あ、ごめん、本当に何でも無い。」
余計な心配をかけそうで、カガリは努めて平静を装った。
「そうか。」
アスランは気になりながもらそう答える。
何でも無い事は見ていてすぐにわかった。が、強いては聞かない。
そんなアスランを見ながら、もし、本当にアスランが自分の側からいなくなる日が来たら…カガリはそう思った。
考えただけで、体中の血が逆流しそうだった。
そんな事は考えられない。考えたくも無い。
でも、本当にそうなったら…。
自分は一体どうなってしまうだろう?
ここまで自分と言う人間に食い込んでいる楔が抜けた時、その衝撃に耐えられるだろうか?
人が言うほど、自分は強くない、とカガリは思っている。
特に、大切なものが出来た時から人は弱くなるのかも知れない。
「…カガリ?」
アスランの言葉にカガリはハッとする。
「え…?」
「手が止まってる。」
アスランが指摘したのは、大切な書類にサインをしている途中だった。
「あ、ああ、ごめん。」
アスランは気遣う表情をする。
「疲れてるんじゃないか?」
そんなふうに心配するアスランを見ながら、カガリは思う。
いつの間にか、側にいるのが当たり前で、それが普通だと思っていた。そんな毎日に慣れすぎて、失う事など無いのだと考えようともしなかった。甘えたいと思えばいつでも甘えられる。触れたいと思えば触れられる。それが、当たり前の日常だった。
だけど…、と言い様も無い不安がカガリの胸に広がる。
運命など誰にもわからない。
どうなって行くのかなんて、明日さえわからない。
今日の夢がただの夢でありますように、とカガリは目を閉じる。
どうかもうこれ以上、大切な人を奪わないで…と。
額にヒヤリとした感触を感じて、カガリはハッと目を開ける。
アスランが後から手を当てがっていた。
「熱は無いようだけど…今日はもう止めたほうがいい。」
そう言うとカガリを立たせ、コートを着せ掛ける。
と、カガリはギュッとアスランの腕を握り、肩に頭を持たせかけた。
「カガリ…?」
「ちょっとだけ、このままでいて。」
今だけ、少しだけ…そうしたらもっと強くなるから。
カガリは心の中でそう呟いた。


<2004.11.21>