約 束折悪しく、雨が降った。 「しょうがない、ここで雨が上がるのを待とう。」 カガリはスタスタとカフェに入っていく。 今日は官邸の近くの迎賓館で、さる国の要人との会談があった。 予定より早くに会談は終了し、待たせてあった車を呼ぼうとすると、カガリが 「歩いたほうが早い。それに、久しぶりに街の様子も見てみたい。」 そう言って、サッサと歩き出した。 確かに、街を迂回しなければ官邸へは車で行けなかった。歩いても時間的にはあまり変わらない。 しかし、あの首長服で街を歩かれては護衛のアスランとしては堪ったものではない。 「カガリ!」 アスランは自分のコートを脱ぎ、カガリに着せ掛ける。 「目立ちすぎる。」 街中まで来た時、折悪しく雨が降ってきた。 「しょうがない、ここで雨が上がるのを待とう。」 カガリはスタスタと街角のカフェに入っていく。 「カガリ。」 あまりの無用心さに、時々アスランはギョッとする。 いつどこで、何があるかわからない。なにしろ、彼女は今「オーブのアスハ代表」なのだから。 幸い、カフェには他に客は誰もいなかった。 「少し、雨宿りさせてもらう。」 アスランは店の者に断わってから(勿論ビックリされたが)、カガリと共にテーブル席に着く。 カガリはしばらく外を眺めていたが、おもむろに口を開いた。 「普通のカップル達は、よくこういうところに来るんだろう?」 “普通の”という言葉に少し痛々しさを感じながら、アスランは答える。 「そうだな。」 「ふうん、そうか。」 カガリは何故か満足げに答える。 「どんな話をするんだろうな、普通のカップルが話す事って。」 カガリは外を見たまま頬杖をついてアスランに問い掛ける。 アスランは苦笑した。自分達が「普通ではないカップル」だと、カガリはさっきから無意識に強調している。 が、それも仕方の無い事だと思った。 まだ18才だというのに、首長服に身を包んだカガリがアスランには痛々しい。 同じ年頃の少女達が普通に経験する事が、カガリには叶わない。 「デートってこんな感じなのかな。」 ふとカガリが呟いた。 アスランは優しく微笑んで言った。 「そうだな。」 いつの間にか雨は上がったらしく、雲間から陽が射していた。 「雨、上がったな。」 店の者に礼を言い、アスランはカガリを促し、カフェを出た。 「雨上がりは冷える。」 そう言ってアスランはカガリにコートを着せ掛ける。 すると、カガリは 「なら、一緒に着ていこう。」 そう言って、コートの片方のをアスランの肩に掛ける。 コートの下でカガリはアスランの腕に自分の腕を絡めながら言った。 「アスラン、…今度また一緒に来よう。今度は休日に…。」 カガリの言葉に少し胸を詰まらせて、アスランは言った。 「そうだな…、今度は首長服じゃないカガリと一緒に。」 カガリはコートの下で嬉しそうに微笑んだ。 <2004.11.14> |