悋 気







ある国の要人を歓迎するパーティーで、カガリは言い寄られた。
相手はその国の要人の息子である。
その日、ブルーのドレスに身を包んだカガリは確かに美しく、人目を惹いた。鮮やかなブルーにはらり、とかかるブロンドが、カガリを一層美しく見せた。
その要人の息子は好青年で、容姿も端麗、頭のほうもなかなかに切れそうな男だった。
ただ、カガリはそんな事よりも政治的な話にしか興味は無く、どんなに男がそれとなくアプローチしても気付かない。ただ、話に夢中である。
むしろ、そんなカガリの様子を側で見守っているアスランのほうがたまらない。
カガリの鈍感振りはとうに知っているが、無防備にも程がある。
男がついに実力行使に出た。
「少し、外に出ませんか?庭を歩きながら話がしたい。」
カガリが「ええ」と言ったものだから、アスランはギョッとする。
こんなものは2人きりになる口実の初歩の初歩。それに気付かないカガリにアスランはイライラと視線を送る。
が、悲しいかなカガリは気付かない。
「アスハ代表は、そろそろお時間が。」
「は?」
「今日はこの後、大事な会議が有りますので。」
「アスラン会議って…。」
そう言いかけるカガリを遮り、
「では、失礼。」
そう言うなり、カガリを引っ張って会場から出で行く。
男は呆気に取られ、2人を見送った。

カガリが何を聞いても車中は終始無言だったアスランだが、カガリの家に着くなり言った。
「いい加減、自覚してくれ。」
カガリは怪訝な顔をする。
「代表としての自覚が足りないって言いたいのか?それは言われなくても判ってる。でも、私だって精一杯…。」
それを聞いたアスランは頭を抱えそうになり、大きく溜息をついた。
「そんな事じゃない。俺が言っているのは…。」
そう言うと、カガリをいきなり引き寄せ、
「隙だらけだって、言ってるんだよ。」
そう言うと、カガリの両腕を封じる。
「アスラン、何…。」
「あのまま2人きりになってたら、どうなってたと思う?」
「………。」
「こういう事をされたって文句は言えない。」
そう言うと、カガリの耳元に唇を押し当てる。
「ちょっ…アスラン止め…っ。」
カガリは必死で押し返そうとするが、叶うはずも無い。
アスランは乱暴にカガリを壁に押し付け、唇を首筋から喉元、そして胸元へと移動させて行く。
「ア…アスラン、わかったから、気をつけるから…。」
カガリは涙声になりながら嘆願する。
「だから許して…。」
アスランは唇を再び耳元へと戻し、
「許さない。」
そう言うと、カガリをソファに運びドレスを脱がし始める。
あの男のカガリを見る意味ありげな視線がチラチラと脳裏を掠め、アスランの悋気は一層増す。
この行為が本当は嫉妬からのものなのだとカガリはまだ気付かない。
それが、アスランにとって救いだったのか、悲しみだったのか。
「あ、駄目!」
カガリの白い肌に点々と付いていく紅い小さな染み。ドレスを着る時に困る、といつも嫌がった。
「ダメだってアスラン!」
アスランは止めない。こうして俺のものだという「証」を付けておくのだ。焼印のように。
そして、出来れば誰の手にも目にも触れられない場所に閉じ込めておければいいのに…そう思った。
だが、奇しくも彼女は「代表」であり、否応無く多くの目に晒される。だから、きっと今後もこんな事が何度も起こるに違いない。そう思った時、アスランは眩暈がしそうになった。
「鈍感。」
「は?」
アスランがそう言って行為を止めたのでカガリは訳がわからない。
「いや、別に。」
アスランは起き直ってカガリを優しく抱き寄せた。
「乱暴にしてごめん。」
「…私のほうこそ、ごめん…。」
本当にその意味がわかっているのかいないのか、アスランは問いただしたかった。が、黙っていた。
今はこうして至福の時にただ身を任せていたい…アスランはそう思った。
「愛してる、カガリ…。」
そうして2人は改めて唇を重ねた。


<2004.11.20>