夜中に目を覚ますと、雨が降っていた。
雨の音はいい…とアスランは思った。何の音もしないより、ずっといい。
生きているんだという実感を持たせてくれる。
ここに存在している、という確かな証拠を。
隣で微かな寝息をたてている、この小さな体も確かな温もりだった。
顔に掛かる金色の髪をそっと撫でてみる。
そして、雪のように白い肌に唇を当てがった。
「う…ん。」
僅かに身じろぎをするカガリ。が、目は覚まさない。
「生きることのほうが戦いだ。」
あの時、彼女はそう言った。
死ぬ事を選ぶよりも、生きる事を選ぶほうが辛い時もある。
確かにそうだ、とアスランは思った。
自分はこれからその茨の道を行かねばならないのかも知れない。
犯した過ちは、償えるのだろうか。
どうやったら?
それはアスランにとって一生背負っていかねばならない十字架だった。
「一緒に行こう。」
カガリはそう言った。
「一緒に戦おう。」
そして、カガリに命を貰った。
こんな自分に何が出来るのかはわからない。
わからないが、この小さな温もりだけは何に替えても絶対に守ってみせる。この場所を失ったら、今自分が存在する意味すら無い。
アスランはそう思った。
「アスラン。」
少し寝ぼけた声が呼ぶ。
「眠れないのか?」
目を覚ましたカガリが、眠そうに尋ねる。
「いや…。雨の音を聞いてただけだ。」
「雨、降ってるのか。そう言えば、ちょっと寒い…。」
そう言うと、カガリはアスランの体の温もりを求めて寄り添おうとし、アスランは腕の中に入れてやる。
そうして、2人は再び眠りに落ちた。

翌朝には雨は上がって雲間から光が射し、空には薄っすらと虹が架かっていた。


<2004.11.21>