君を 想う「おはよう。」 その部屋のドアを開けると、向こう側から朝の柔らかい光とともに、凛とした声が降り注いできた。 そして光の中でその笑顔がまともに自分に向けられているのを見て思わずハッとなり、暫く呼吸をするのさえ忘れた。 何かが溶けて流れていくような音がトクリ、とどこかでした。 それはどんどん広がって、全身へ、そして体の外へと向かって次第に溢れ出して行く。 「おはよう。今日は早いんだな。」 そう答えるのがやっとだなんて、なんていう様だろう? まるで免疫が無い自分の不様さを、今更ながらに思い知るなんて馬鹿な話だ。 いや。…馬鹿は、元々か…。 「…何を一人で笑ってるんだ?」 「いや…。それより、昨日も遅かったのに…?」 その問いに、ただ何だか早くに目が覚めたから…とカガリは笑って答えたが、どうせまたいろいろな事が思い浮かんでは、ロクに眠れなかったのだろう。 聞かなくてもわかる。 それなのに、あの笑顔、だ。 どうしたって敵う相手では無い、とまた思い知る。 …それが困るのだ。どうしていつも始めから降参してしまう? また掛け金が、掛けられない。 トクリ、と音がして、部屋中に零れ落ちていく。 「ところで例の法案の件なんだが…。」 そう言いながら、カガリが書類を手に席を立ち、こちらに向かって歩いて来る。 光を背にした彼女の輪郭が淡く優しい線で縁取られていくのを、目を細めながら見る。 髪が透けて揺れるのが、余りに甘い。 部屋中に満ちた朝の清涼とした光と空気とが、忽ちに、仄かな淡い色彩へと染め上げられていく。 影でさえ、 思わず、またひとりでに微笑が零れた時、トクリ、と流れ出た得たいの知れないもの 止まらない。 鍵がかけられないから、もうどうしようもない。 そんな妄想の海に溺れ行く自分を、助け上げようとでもするかのように、カガリは向こうから遣って来る。 延べられた手を、救い上げようとする手を、時には突っぱねながらも、いつもどんな想いで待ち望んだだろう? 君は知っているだろうか。 知ったらまた、馬鹿だと笑ってくれるだろうか? 「…どうした…?」 瞑眩とした面持ちで、眼差しで、見つめる自分を不思議そうに見て君は少し首を傾げる。 サラリ、と髪がその柔らかな頬を流れた。 「アスラン…?」 何も、誰も、知らなくてもいい。 君は、知っている。 知っているから、敵わない。 「……ごめん。」 君が、 「?…ごめんって、お前…?……って、わっ、なっ…!!」 それが、何よりも………。 「いや、だから、…………………………………ごめん………。」 <2005.07.18> |