蒼 月







カガリは目の前の写真を見ていた。
父、ウズミ・ナラ・アスハと幼いカガリの写真。
父に抱かれてカガリは幸せそうに笑っている。
「お父様…。」
そっと呼んでみる。父の瞳が笑ったような気がした。

「小さい頃、この場所がお気に入りだったんだ。」
カガリはアスランに言う。
「お父様に叱られたり、悲しい事があった時はいつもここに来たんだ。そうするとお父様が探しに来て…『カガリ、おいで』って。泣きながら抱きついて行ったっけ。」
アスランは目で返事をして黙って聞いている。
そんな思い出の場所で語る2人の上には、蒼い月。
「人は思い出があるから、生きられるのかな。」
カガリはそう呟くと、少し淋しげな瞳をする。
「いい思い出も、悲しい辛い思い出も…。」
そう言うと、暫く2人は黙ったまま月を見る。
「多分きっと、全てを受け入れた時に、それを『思い出』って言うんだろうな…。」
ポツリ、とアスランがそう言った。
「…そうだな…」
カガリは呟いた。
「そろそろ帰ろうか。」
アスランはそう言うと、先に立って歩き出そうとした。
が、カガリが来ない。
「カガリ?」
「あ、何でも無い。」
アスランの後姿が何だか泣いているように見えた。月の光のせいかとカガリは思った。
「カガリ。」
アスランはくるりと振り向いた。
「おいで。」
蒼い月の光の下、微笑むアスランがいた。


<2004.11.28>