軌 跡







蒼い月が空に架かる、夜の海辺。
その光に照らされながらゆっくりと、カガリは波打ち際を歩いて行く。
揺れる水面ではキラキラと、蒼い光が跳びはねては四方に散らばるように、夜の闇を照らしていた。
寄せては返す波に素足を洗われながら、ただ、黙って歩いていく。
ふと俯くと、濡れた砂地にクッキリと、自分のものでは無い、誰かの足跡…。
それは、闇の彼方へと続いている。

       

カガリは闇の向こうへ目を凝らす。
その時、月の光から矢が一筋、スッと星のように流れ出て、彼方の闇を照らし出す。
    カガリはハッとする。
続く浜辺の向こうには……逢いたくて、堪らなかった、その姿…………。
けれど、カガリが何を言う間も与えず、一瞬闇を照らした光の筋は、やがて海の中へと墜ちて行く。
辺りはまた、薄い夜の帳が降りて、優しい闇が世界を包む。
その時ふと、心の中に聞こえた、一つの声……。

       きっと、逢える。

しばらく佇んでいたカガリは、やがて濡れた砂地に残る、その足跡をたどる様に一歩、また一歩と歩き出す。
見失なわないように、波が掻き消さないように、早く、速く。
この向こうできっと待っている、その姿を信じて……。
闇はやがて、終わりを告げる。
白み始める空の下で、きっと見つけるだろうその姿を信じて、カガリは歩き続ける……。





ふと目醒めれば、真夜中の部屋。
闇の中でカガリは、今のは夢か、それとも幻かと考える。
やがて、ベッドから抜け出すと、シンクの前に立ってグラスに水を注ぎ、それを一口コクリと喉に流し込む。
そして、グラスに残った水に映る、スタンドライトの灯りの揺らめきを、じっと見つめる。

       きっと、逢える。」

そう呟いたカガリの表情が、映った水面の上で、揺らぎながら微笑んだ。


<2005.03.15