記念樹







樹を植えよう

記憶はやがて
枝を彩る衣となり
優しい緑の想い出となる

樹を植えよう

怒りも涙も微笑みも
全部蕾に閉じ込めて
そっと花を咲かせよう

樹を植えよう

私が逝ってしまっても

想いはここに残るから……




「ここにいたのか。」
アスランが庭を突っ切って、こちらへ歩いてくる。
「…ああ、ちょっと考え事。」
カガリはそう答える。
アスハ家の庭の一番端にある、一本の小高い樹。
その側に佇むカガリを、アスランは時々見かける。
今が花の盛りを迎えたその樹には、紅色の美しい花弁が樹々一杯に溢れていた。
「綺麗だろう?…゛ハナミズキ゛って言うんだ。」
カガリは樹を見つめたままでアスランにそう言った。
その姿を見ながら、
「綺麗だな。」
とアスランは、しかし、花よりもカガリ自身に向かってその言葉を差し出した。
「この樹……。」
そう言いながら、カガリの瞳はここでは無い、どこか遠くを見ている。
「私の10歳の誕生日に、お父様と植えたんだ。」
「……そうか。」
アスランはそう言ったまま、カガリの横顔を見る。
懐古の眼差しで見つめるその顔は、やはりどこか儚げで…。
それは紅色の額縁に縁取られた儚げな一枚の絵のように、切り取られてアスランの心に残る。
「゛想い出の数だけ花が咲く゛って、…ホントかな…。」
カガリがポツリと呟いた。
零れる紅の花…それは、カガリと父ウズミの想い出の数…。
「…綺麗だな。」
アスランは、今度は花を見て、返事にならない言葉を繰り返す。

「なあ、アスラン…。」
カガリはアスランを見る。
その顔には、先程の儚げな影は、もう、無い。

「今度一緒に、樹を植えよう。」
そう言って、微笑んだ。
「ああ。」
アスランもそう答えて微笑みかける。

「花が、たくさん咲くといいな。」

アスランがそう言うと、カガリは嬉しそうに微笑んだ。


゛想い出の数だけ 花が咲く゛



樹を植えよう

想いを繋いでいくように
ずっと憶えているように

そしてここに
……2人の想いが残るように……


<2005.01.29>



※「ハナミズキ」…紅色の花びらに見える部分はがくが変化したもので、実は真中の黄色い部分が本当は花の本体…だそうです。そして、本当は成長の遅い木なんだそうです…。