君が 微笑む日







庭に咲いたバラの花を愛でながら何を想うのだろう


朝まだ早いその屋敷の庭で、一人少女がバラを愛でながら佇む姿を見て、アスランは物思う。
自分に宛がわれた部屋の窓からは、綺麗に手入れされたその庭が見渡せて、
「いい部屋だろう。」
と少女は言った。
きっと、まだその土地に馴染めない自分の為に、精一杯の気を使ってくれているのだろう、とアスランは思う。
まだ癒えぬ疵を引き摺ったまま、日々を過ごしているのは彼女も同じ筈なのに。
でもその優しさに、いつの間にか自分は甘えている…。
何も出来ない自分が、一体ここで何をしているのかと、いつも自問自答を繰り返しては、結局その答えを見出せないまままた振り出しに戻っている。
だがそんな日々にさえ、最近では気づかないでいる…。
それが、こんな朝にはズキズキと疼きだして眠れない。
ふと気づくと、庭にあった筈の少女の姿が、無い。
また、部屋に戻って眠っているのだろうか、とアスランが思ったその時、ノックの音がした。
「入ってもいいか?」
先程庭にいた筈の、少女の声。
アスランがドアを開けると、手にバラの花束を持った少女が立っていた。
「カガリ…?」
アスランが驚いてそう呼ぶと、
「さっき、庭からお前の姿が見えたから。」
そう言って、
「さっき摘んだばかりのバラ、綺麗だろう?」
と、朝露に濡れたその花束を差し出す。
「…俺に?」
アスランがそう言うと、
「別に女が男に花を贈ってはいけない事は無いだろう?」
と、カガリはそう言って笑った。
受け取ったそれは、とてもいい匂いがして、先程までの陰鬱とした空気が少し和らいだような気がした。
「眠れないのか?」
とカガリが問う。
アスランが曖昧に笑うと、
「眠れるまで側にいてやるよ。」
そう言って、カガリが部屋の中に入ってきた。
「いや、カガリ、あの…。」
アスランが止めようとしたが、カガリはそんな事にはお構い無しに、ベッドに近付くと、その端に腰を掛ける。
早朝とはいえ、こんな時間に部屋に二人きりだなんて、誰かに見られていたらどうするのだろう…そんなアスランの心配をよそに、カガリはじっとアスランを待っている。
仕方なしに、アスランはバラを持ったままベッドに近付くと、躊躇した後、その花束を枕元に置いて、ベッドに潜り込んだ。
こんな状態で眠れるわけは無い、と思ったが、カガリがそっと頭を撫でてくれるその気持ち良さと、バラの花束の何ともいい香りに誘われて、不思議と次第に眠気が波のように忍び寄ってきた。
緩やかに、眠りに誘われていく。
眠りに落ちようとする寸前に、ふわりといい匂いが漂ったのは、バラの香りとは別の、何か優しい香りだった。
「おやすみ、アスラン。」
最後に聞こえたその言葉と共に、アスランはカガリが微笑んだような気がした。
そしてその時、カガリもまた、眠れないのだという事に、アスランはまだ気付いてはいなかった。


<2005.04.17>



本当は拍手用に書いた話なのですが、長くなってしまった為こちらに載せました。