とうめいな時間







双子だからと言って必ずしも見目形が似ている訳ではない。
一卵性の場合を除いてはむしろ、似ていないのが普通だと言う。
けれど、同じ血を分かち合った二人…。
それは目に見えないもう一つの糸によって、互いの魂を結び付ける。

心のどこかで繋がっている……それは或いは、何よりも誰よりも強い絆なのかも知れない…。





「近くまで来たから…。」
そう言ってカガリが一人でキラのもとにやって来たのは、昼下がりの午後の事だった。
首長服に身を包んだその姿を見ると、まだ公務の途中なのだろう。
いつも隣にある筈の姿が見当たらないので、
「アスランは?」
とキラが聞くと、
「ああ…。」
とカガリは目だけで少し笑って
「アイツは今ちょっと別の仕事で、取り散らかしてる…。」
護衛だけで無く、他の仕事もいろいろとな…とカガリはそう言った。
二人きりの部屋に、午後の優しい光がテラスを通して降り注いでいる。
ラクスは気を利かせたのか、「子供達と浜辺で遊んで来ますわ。」と、先程外へ出て行った。
なかなかゆっくりと会えないこの姉弟に、ラクスなりに思うところがあるのだろう。
マルキオ導師は元々用事で不在。
思えば、二人きりでこんなふうに向かい合うのは一体、どれくらい振りだろうか…。
キラはカガリの細い肩を見ながらそう思った。
「いい風が入ってくるな。」
そう言って、カガリがテラスに出たので、キラも後を追う。
「うわー、気持ちいいー。」
カガリが空に向かって伸びをして、風に当たるのがさも心地良いかのように目を閉じる。
そんなカガリを、キラはただ黙って見ていた。
それからカガリは、他愛の無い話を幾つか話した。
マーナに新しいドレスの試着をさせられて辟易とした、だとか、屋敷に住みついた猫が子猫を生んだ、だとか、新しく入ったメイドがよく物を壊すのでしょっちゅう怒られている、だとか…。
そんな話を、ただずっと微笑んで聞いていたキラは、やがてカガリが話し終えると、静かに言った。

「………何があったの、カガリ…?」

思わず、優しさと労わりに満ちたその静かな瞳に出合ったカガリは一瞬、泣きそうな色をその瞳にハッと浮かべたが、すぐにまたその視線を足元に移した。

「…うん……………………実は正直…ちょっと、参ってる…。」

カガリは下を向いたままで、苦しそうに笑った。

「まだまだ無力だなって…また思い知らされたよ…。」

隠していた心をふいに衝かれ、そのキラの優しさに、カガリはどうしようもなく本心を吐露する。
何があったのか多くは語らないが、その重すぎる肩の荷にまた過重がのしかかっているのだろう。
そしてそれは多分、アスランがいてもどうしようも無いこと…そしてカガリはまた、そんなアスランを思い遣って何も言えないのだろうと、キラは目を細めてカガリを見やる。
何もしてはやれない自分の分身。
けれど、その痛みは心のどこかで繋がっている。
キラは片手を伸ばして、カガリの頭にそっと触れる。
父親譲りであろう、その金髪が何故か懐かしい、と思った。
面差しは、写真の中の母親と、最近良く似てきた。
そのうち笑うとそっくりになるだろう。
……これは一種の憧れなのだろうか……?
ナチュラルとして生まれた、もう一人の自分……。
そして掛け替えの無い、もう一人の自分…。
キラの手に導かれるように、カガリは頭をそっとキラの肩に持たせ掛ける。
そして、傷ついた小鳥のように、そのままじっと身を預けていた。
やがて、浜辺のほうからラクスと子供達の楽しげな歌声が聞こえてきた。

「キラ…。」
「ん?」
「……あと、3分……。」

そんなカガリに、キラは優しく微笑んで言う。

「いいよ。」

分かち合う事は出来ないけれど……君の心が少しでも和らぐのなら…。

浜辺の向こうから、ラクスと子供達が笑いながらこちらにやって来るのが見え、その姿を午後の柔らかい光が包み込んで、キラの瞳にはそれが何よりも優しい一枚の絵のように見えた。


<2005.04.03>



言いたい事、ちゃんと伝わったんだろうか……(汗)