恋するアンドロイド/番外  「名前」







「お前は『アスラン』で、私は『カガリ』だ。」
目の前の少女はいきなりそう告げると、くるりと向きを変え、長く伸びる廊下を歩き始めた。
『アスラン』と、先程から呼ばれているその名前が、どうやら自分の新しい名前らしい。
そしてこの前を歩く小さな主人が、『カガリ』、と言う名前だと言う事が理解できた。
「はい、カガリ様。」
そう答えると、小さな主人の足が急にピタリと止まった。
そしてくるりと振り向くと、
「『カ・ガ・リ』だ。『カガリ様』じゃ、無い。」
腰に手を当て、顔を上げて、自分の倍以上も身長のある俺の目を見据えてきた。
「主人を呼び捨てにする事は許されておりません。」
用意されたデータの中からそう答えると、
「はあ、カッタイなあ、お前。」
そう言って溜息を吐く。
「カッタイ、とは何ですか?」
「『固い』、頭が固い、って言うイミだ。」
そう言って指で自分の頭を指し示した。
「そうですね…確かに人間と比べると柔らかいとは言えませんが、しかし、私の体は最新の技術で作られた、より人体に近い軽さと弾力性を持ち合わせた素材で作られているので今までのような重くて固い…。」
「ああああああーー、もうわかった!」
説明を始めたその言葉を、主人の声が遮った。
「そう言う意味じゃない…し、そんな無表情で答えられても、笑えもしない。」
そう言うとまたひとつ、溜息を吐いた。
「とにかく、『カガリ』、でいい。」
「……では、そう命じて下さい。」
「へ?」
「主人の命は、例外を除いては絶対服従です。」
「……命じれば、そう呼ぶのか?」
「はい。」
「では、『カガリ』と。今後一切、……そう呼びなさい。」
     そう命じる主人の顔が、何故その時曇って見えたのか、悲しげだったのか、……その時は全く気にも掛けはしなかった。
そしてまた振り向いて歩きかけたその小さな背中に向かって、
「はい、カガリ。」
そう答えると、ピクリ、と一瞬体が反応した。
「………うん。」
さっきまでの調子と違う静かな声が、小さな背中越しにか細く響いた。


<05.09.11>