ギソウ、ケッコン 番外編 誕生日2





 誕生日には相変わらず手作りの食事とシャンパン。
 それがいいと彼は言う。
 そしてそれ以外は何もいらない、と。


 結婚して2年半。
 まだ2人で私達は過ごしている。
 授かり物のことはあまり考えないことにしていた。
 それこそ授かり物だから、自然の流れに任せようと。
 何より私達はきちんと付き合い始めてまだ1年半しか経っていない。
 お互いのことを知り合ってもいないのに、先に子供を作ると言うのもそれこそ変な話なので、出来たら出来たでよし、出来なかったら出来なかったでそれはあまり考えないことにしている。
 誕生日。
 彼の生誕の日が今年もまたやって来た。
「何が欲しい」と聞いても今年もまた同じ答え。
「家で手作りの食事がいい」、と。
 それでは毎日の生活と何も変わらないのだけれど、と思いながらも「そう」と私は答えた。
 それは彼が毎日の生活をとても幸せだといとおしんでくれている証拠なのだと思う。
 それ以上のものは何も望まないという気持ち。
 このままがいい、このままでいい、と。
 それは私も同じだから、だからわかるのだ。
 余計に大切にしたい。
 何も変わらないまま。
 今が、いい。
 じんわりと伝わってくる気持ちが嬉しかった。
 そして何より、2人同じ気持ちでいることが嬉しかった。


「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 シャンパンでお祝いした。
 去年はリボンやレースで飾りつけた部屋は、今年は花だけにした。
 真赤なバラの花束だけを花瓶に挿し、テーブルに置いた。
 真っ白なテーブルクロスにそれは映えた。
 2年前よりも、1年前よりも少し大人になった二人に相応しいシンブルさだった。
 シンプルだけではなく、空間の中で一際存在感を示すバラの花束が、くっきりと何かの境界線を作っている。
 その境界線が、昨日までの子供だった私達と、今日からひとつ大人になった私達を隔てているようだった。
「ひとつ大人になったあなたに」
 そう言ってグラスを差し出すと、彼は笑って自分のグラスを差し出した。
 軽くグラスの触れ合う音。
「酔ってるの?」
「なんで?」
「普通は絶対にそんなこと言わない」
 目がとても笑っている。でも嬉しそうだ。
「そうね。酔ってると思う」
 また笑った。
「最近の君は酔うととても可愛い」
「可愛い?」
「そう」
「可愛い?」
「可愛い」
 前はこの言葉が嫌いだった。
 とても嫌いだった。
 でも今は好きだ。
 もっと言って、とねだると手を伸ばして頭を撫でてくれた。
「可愛すぎて困る」


 この日のために買った女らしいワンピースを彼の手が脱がして行く。
 それを甘えながら時々邪魔しながら楽しんだ。
 キスの間、彼の手は少し止まっていたけれど、終わるとさっきより早い手つきで脱がせ始める。
「大人っぽいね」
 服を見て言った。
「そそられる」今度は耳元でそう言った。
 その言葉に私がそそられた。
 甘い声を出し始める。
 彼の仕草に熱がこもる。
 今までで一番甘い声で啼いた。
 今までで一番悪い女になって誘惑した。
「悪い子だ」
 熱っぽい目で彼は私を見ると今までで一番容赦の無い激しさで陵辱した。
 されながら幸せだった。
 幸せすぎて今までにない力で背中に指を穿った。
 口からはもっと、もっと、とはしたない言葉ばかりを口走った。
 途中で目を開けると、彼が笑っていた。
「いいよ」
 熱っぽい目でそう答えると、真顔になった。
「食べたいくらい可愛い」
 目が、潤んでいた。


 短い声を発して果てると、彼は私の首元に顔を埋めた。
 しばらくして荒い呼吸がおさまってくると、顔をあげた。
 そして真っ直ぐに私の目を見て言った。
「来年も、再来年も、こうして君を抱きたい」
 いとおしさに彼の唇に指で触れた。
「うん」
 それから小さな声で答えた。
 ――抱いて、と。
 3年後も4年後も、10年後も20年後も、ずっと抱いてね、と。
 おばあちゃんになっても。
 そう言うと笑った。
 いつまでも抱いていて。
 うん、約束する。
 ずっとね。
 うん、ずっとだ。

 君が嫌だと言っても、ずっと抱くよ。


 そう言って彼はまた微笑んだ。



(2013/10/27)

突発的創作