雪の華
「雪の結晶は、一つとして同じ形をしたものは無いのだそうだ。」
「一つとして?」
「ああ。」
へえ、と言いながらカガリは落ちてくる白い雪を手の平で受け止める。
黒い革の手袋の上でそれは白い華のように点々と咲き乱れていく。
「白くて無垢で綺麗な華のようだな。」
そう言うとカガリは片手の手袋を外し晒した素肌に華を受け始めた。
白い手の平に着氷した華は暫く咲いたかと思うと、咲き急ぐように融けては消えていく。
「華の命は短くて…だな。」
横からそう言って眺めているアスランの頬に向かって、その手は延ばされる。
「でもな。」
雪の華で濡れた手の平でしっかりとアスランの片頬を包みながら、カガリはニコリと笑う。
「一瞬でもちゃんと生きていたんだぞ。」
ホラ、と言わんばかりに押し付けられた手の平の冷たさに一瞬ギョッとしながら、アスランは自分も片方の手袋を外してカガリの手の上から重ねると
「そうだな。」
そう言ってカガリの手を外して自分の手の中に包むと、そのまま自分のコートのポケットに差し入れた。
「手が温まったらホテルに戻ろう。」
「うん…。」
下を向いて微笑するカガリを見ながら、こんな姿さえ人目に晒す事の出来ない自分とカガリの想いが、まるで淡い雪の華の命のようだとアスランは思った。一瞬にして融けてしまう、例えそんな命でも、その一瞬は懸命に無垢な命を咲かせているのだと、一瞬だからこそ懸命に咲こうとするのだと、次々と夜空から舞い降りてくる白い華を見ながらそう思った。
「綺麗だな。」
見上げて言うカガリの髪やコートに次々と新しい華が咲いていく。
そしてアスランにも。
「ああ。」
そう言ってアスランは同じように見上げると、ポケットの中の手をカガリの指に絡めて少し力を込めて握った。
カガリの指がアスランを包むように優しく握り返す。
黙って凭れかかったカガリの重みを片腕に感じながら、絡めた指から伝わる温もりを、そしてこの無垢な一瞬を、忘れる事は決して無いだろうと。
降りしきる白い雪に身を晒しながらアスランはそう思った。
<05/12/25>
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